home食品衛生コラム食品と微生物とビタミン愛第69話 生食野菜類によるSTEC食中毒の系統的レビュー

第69話 生食野菜類によるSTEC食中毒の系統的レビュー

2019.12.01

日本食品分析センター学術顧問・北海道大学名誉教授 一色賢司

一色 賢司先生の略歴

http://researchmap.jp/isshiki-kenji/


加熱せずに食べる野菜サラダなどに関連する志賀毒素産生性大腸菌(STEC)食中毒は、1995年以後に学術論文として報告されています。このたび、英国においてこれらの論文が精査され、系統的(システマティック)レビューとしてE.Kintzらによって発表されました。図1は、信頼性があるとして採用された論文で取り扱われた1995年から2018年の各年毎の事例数です。わが国のかいわれ事件の報告も取り上げられています。このレビューのポイントを要約してみましょう。

 

1)関連論文の検索とレビュー


まず論文の検索は、Medlineデータベースを使って2019年4月7日まで行われました。適切な対策を講じるための科学的根拠を得るために、客観的な絞り込みが行われました。1,612件の論文が見つかりましたが、重複を排除すると1,034件に減少しました。 Google Scholarでも検索されましたが、既にMedlineデータベースで検索されたものが検索されていました。残った1,034の論文について査読が行われました。調査方法や検証法、証拠の確かさなどの検討がなされました。

2)系統的レビュー結果について


全文スクリーニングに基づいて、62の論文が最終レビューを行うために選択されました。さらなる、検討の結果、表1に示す35件のSTEC食中毒の論文が最終レビューの対象として選択されました。これらの35件の食中毒は、1995年7月から2018年10月の間に発生していました。 レビュー対象となった食中毒は、ヨーロッパ(12件)、北米(22件)、または日本(1件)でした。食中毒の発生持続期間は、33件で4〜97日で、中央値は30日でした。図2に示すように、多くの発生は6月から9月に始まる傾向があるようでした。冬の間にも発生していました。

35件中の29件の食中毒は、STEC血清型O157によって引き起こされていました。患者数は図3に示すように、8~8,500人を超える範囲でした。2011年のドイツを中心とするSTECと腸管凝集性大腸菌のハイブリッドO104:H4による食中毒では、溶血性尿毒症症候群HUSの854人の症例と54人の死亡という最大数が記録されました。アウトブレイク内の報告された年齢の中央値は16歳から65歳の範囲で、平均31.6歳でした。女性のケースの割合は、45から97%の範囲で、平均は66.4%でした。


35件の食中毒のうち、原因食品の決定に関する信憑性の高い証拠があったのは4件のみでした。 20件は中レベルの証拠があり、11件の研究は記述的証拠のみでした。STECが食品をどのように汚染したかについては、6つの研究が強力な証拠を持ち、8つの研究が汚染を示唆する証拠を持っていました。強力な証拠がある6つの食中毒のうち、4つの研究で灌漑用水から汚染菌を検出することができ、可能性のある汚染経路の証拠とされました。残りの2つの研究では、灌漑用水からのstx2遺伝子の検出と並んで、原因菌株が近くの動物の糞便から検出されました。

志賀毒素stxの検出は、原因菌の決定的な証拠がない場合でも、STECの存在の指標です。ほとんどの研究では、汚染経路を特定できていません。表2のようにSTECの発症菌量が少ない事とSTECの分布が均一ではないことが、これらの原因と考えられます。


35件の食中毒のうち14件のみが、汚染の原因である可能性のある農産物の処理または取り扱いで考えられるルートを特定できていました。11事例で、水が汚染プロセスに何らかの形で関与していました。それは栽培中、または種子または農産物の洗浄および消毒中のフィールドでの汚染でした。発生のうちの2つだけが、発生源の近くの牧場の動物と汚灌漑水の両方でSTECが見つかっていました。32件の食中毒事例で原因追及のために,遡り(トレースバック)調査が行われました。しかし,ほとんどでSTEC汚染原因の特定は困難でした。 STEC食中毒防止には,農場から食卓まで全員で努力を続けることが必要ですね。

 

参考文献:


1)E.Kintz, et al.: Outbreaks of Shiga Toxin–Producing Escherichia coli Linked to Sprouted Seeds, Salad, and Leafy Greens: A Systematic Review, J.Food Protection, 82(11),1950–1958(2019)

2)B.V.Jagannathan, et al.: The Need for Prevention-based Food Safety Programs for Fresh Produce, Food Protection Trend,39,572-579(2019)

3)FAO, WHO: Attributing illness caused by Shiga toxin-producing Escherichia coli (STEC) to specific foods. Microbiological Risk Assessment Series No. 32. Rome. 74 pp. (2019).